論点




1 「出会い系サイト」の定義

 2002年4月に出た報告書では、「もっぱら男女の一時の性的好奇心を満たすための交 際を仲介するサイトにはテレクラ同様の年齢確認をさせる」というものであった。 しかし、 テレクラとは違い、インターネットはサイト作成上の自由度がかなり高いため、 このような定義では、簡単に定義から外れてしまう。

 そこで、2003年2月に明らかになった法案の原案では、 「異性交際を仲介するサイトには年齢確認をさせる」 というものであった。 ここでは、「もっぱら」と言う限定句が付いていない上、 「一時の性的好奇心を満たすための交際」のみならず、 広く「異性交際」とされている。

 3で述べるが、インターネットは、本来的に「出会い系サイト」の機能を有するゆえ、 このような広範な定義ではインターネット上のサイトはほとんど規制されてしまう可能性がある。 もちろん、それでも良いという意見もあろう。 ただ、6条は、少なくとも一方が児童の場合の性交または対価を伴った交際の勧誘を不正勧誘行為として挙げているが、 サイト規制はこれら行為の防止にあるのだから、 「もっぱら一時の性的好奇心を満たすための交際、または、対価を伴った交際を仲介するサイト」という限定を加えた方が自然ではある。

2 児童処罰

 6条に規定される不正勧誘行為は児童にも適用される。 この児童処罰の可否が問題となる。

 そもそも「児童の商業的性的搾取に関するストックホルム宣言」(96年)で想定されていたのは、「貧困国において売春を強 いられている子どもの保護」だったはずである。 そうすると、「援助交際(=生活に困っていない女児の売春)」は想定外であり、 これを適用しないとする考えもありうる。児童にアンケートをとると、援助交際は、「本人の自由」と答える者が多数である ことがよく問題視されるが、例えば、「貧困国での児童買春はどうか」と聞 けば、「本人の自由」などとは誰も答えないはずである。これは、ストックホ ルム宣言の想定と援助交際の違いを物語っている可能性がある。 警察庁の調査によれば、少女からの勧誘が9割を超えているという。 それなのにこれを「性的搾取」として扱って良いのかという問題である。 もし想定外だとすると、今回の規制自体、根拠を失う可能性がある。

 他方、ストックホルム宣言を離れて、どうしても援助交際を根絶する必要がある、 という論法も一応成り立つ 。しかしながら、これにも問題がある。

 もちろんストックホルム宣言で「児童を処罰してはならない」とあるにもかかわらず、これを 処罰するから問題であるという者もいる。しかし、ここでストックホルム宣言を超え て規制を施すというのであれば、これは問題にはならない。

 しかし、例えば「自殺未遂」を処罰しないことを例に挙げるのがわかりやすい。自殺 も援助交際同様、社会問題化しており、しかも人命は、援助交際に比べれば、はるか に保護すべき法益は高いものといえる。しかしながら、これを処罰しないのは、「本 人の意思で、自己の法益を放棄しており、それに伴って第三者の法益を害するもので はないうえ、この解決には、行為者処罰では本質的には解決することができず、むし ろ社会の問題として解決すべきという要請が強いから」である。援助交際についても これと全く同じに考えられ、援助交際における児童には、処罰はなじまないという考えもありうる。 別の表現をすれば、もし、援助交際で児童を罰するというのであれば、より保護法 益の高い人命につき、「児童の自殺未遂者は○○に処する」といったおかしな刑罰法規を 作らなければ、整合性がなくなってしまうということである。


3 インターネットの性質

 インターネットは、言うまでも無くコンピューターのネットワークである。しかし、 当たり前だけど忘れがちなのはそのコンピューターには1対1で人が対応しており、 実はインターネットはコンピューターを介した人のネットワークということができ る。コンピューターが得意とするのは、「検索」である。つまり、インターネット は、人のネットワークから、目的の人を検索することを最も得意とするシステムとい うことができる。すなわちインターネットの本来的性質は出会い系サイトそのものと 言っても過言ではない。

 その証拠に、ドットコム企業が終焉したといわれる現在でも拡大されつつあるサービスとして3つが挙げられ る。 それは、

・出会い系サイト(人自体を検索)
・ネットオークション(人の持っている物を検索)
・意見交換掲示板(人の持っている意見を検索)

である。これらに共通するのは、個人同士がやり取りをしている点である。これこそが今まで のメディアに無い画期的なことである。 最近は言われなくなったが、インターネットが普及し始めた頃は「双方向性」という 言葉が良く使われた。使われなくなったのは、どんな大企業でも個人と 双方向でやり取りすることは、手間がかかり過ぎて不可能であることに気が付いたからである。 しかし、上記3つのサービスは、今でも「双方向性」なのである。双方向性は、個人同士のやり取りの中でしか実現できないのである。 そして、この個人同士の双方向性とは、出会い系サイトそのものである。 インターネットそのものが出会い系サイトの機能を主な機能として持っている以上、出会い系サイトゆえの規制はインターネットの発展を阻害する可能性がある。

 「個人同士の双方向性」は、時代に新たな潮流を生み出す。 今までは、個人は、役人や大企業の言いなりで、「長いものには巻かれろ」であったが、 個人同士が相互の連絡の中で自由にものを考え始めると、 社会システムに測り知れない影響力を持ち始める。 こういう姿こそ真の民主主義である。 国民相互が直接やり取りするフラットな形こそがインターネットの重要な形であり、 これから守っていかなければならない最重要事項である。 見知らぬ者同士が知り合うことに抵抗感を感じるかもしれないが、これを恐れて はならない。場所の制限を越えて個人同士がやり取りする、全く新しい時代が到来しているのである。 逆に場所的制限があったこれまでの方が不自然と考えるべきである。 たまたま趣味や意見が合う人や結婚相手が隣近所や職場にいる方が稀であるはずだ。 この点こそ真のIT革命である。 この点を見誤り、過度な規制を作れば、 単に日本がインターネット後進国となるだけに留まらず、 これから到来するであろう、個人が本当に主役になる時代の芽を完全に摘み取ってしまうことになりかねない。


4 人権との関係

 出会い系サイトを規制することは、憲法21条の表現の自由、通信の秘密に関わると言われる。 こういった権利自由は、一旦侵されれば、2度と回復することができない。 なぜなら、例えば、規制を撤回させようとして、インターネットで同志を募ろう と思っても、既にその自由は失われているからである。したがって、こういった規制 は、たとえ児童に対しても、極めて慎重でなければならないはずである。しかしなが ら、18歳未満は全面禁止とするのは、慎重な規制とは言えないかもしれない。 実際、援助交際を行っている児童などは極めて少数派である。 女児同士のプリクラ交換の約束などの方がはるかに多いは ずであるが、わずかな者のために問題の無い大多数まで規制するのは 慎重な規制と言えるか検討の余地がある。


5 予備以前の予防的規制

 例えば、刑法には殺人予備罪や強盗予備罪など、特に凶悪な犯罪については、 その予備や準備段階での処罰がある。 が、その他の多くの犯罪は、未遂罪は処罰するとしても、 あまりに前の段階での処罰は、規定されていない。 これは、処罰の範囲が、不当に広がらないようにするためである。 予備的な処罰の範囲が広がりすぎると、例え犯罪を犯す意図は無くとも、 客観的に条件が揃う(例えば、窃盗を犯す予定は無いが、鍵をやぶる道具を持っていたとか)だけで、 その犯意を疑われ、誠に不自由な社会となるからである。

 日弁連の方が言っているが、 「児童が援助交際をしても無罪なのに誘引の段階での処罰はおかしい」 と言う意見も、それなりに説得力があるが、 この場合は、まだ、犯意が明らかになっているのでいいが、 それよりも、サイト側から見れば、サイト自体の規制は、 援助交際が必ず行われるわけではない極めてその可能性の薄い段階での規制であるから、 援助交際の幇助の予備にも至っていない、そのはるか前段階の(というか援助交際とはもはや相当性ある因果関係は無いし、幇助の意思も無い)予防的な規制となる。 つまり本犯から、だいぶ離れたところでの規制となるのである。

 もちろん、やむにやまれぬ理由から予防的な規制が全く許されないとは言えない。 しかし、もし、予防的な規制をするのであれば、 取締りに最大の努力を行い、それでも取締りが不可能だ、ということが証明される必要がある。 そうでなければ、こうした予防的規制はいくらでも拡大してしまうからだ。


6 個人情報保護

 8条によると、 「国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、児童でないことを確認しなければならない」 となっており、国家公安委員会規則で 身分証明書をFAXで送信するか クレジットカードで確認すると定められた場合には、 これら個人情報が適切に扱われるかどうかという問題がある。


7 アンケートの取りかた

 規制の理由となったアンケートであるが、 全国の運転免許試験場で行われたそうである。8割が賛成との結果を得たという。しかし、権 利や自由といったものは、少数者に関して侵害されやすいのであり、多数決の調査を しても意味が無い場合がある。例えば外出が難しい障害者の意見は、このアンケートでは汲み取れない。また、18歳未満 の人権を運転免許試験場に来た18歳以上の者(極わずかの18歳未満もいたらしいが)に聞いて、 調査方法が正しいかどうかは議論の余地がある。 さらに、出会い系サイトに厳格な年齢確認が求められた場合、利用者にク レジットカード決済や身分証の提出が義務付けられる可能性があり、 18歳未満の者のみならず18歳以上の者も規制の影響があることを、 アンケートの回答者に対して説明した上で、回答してもらったのかどうかで結果が異なる場合もある。


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